良寛 ② 詩と書
良寛でいい感じの詩がありました。題は分かりません。
花無心招蝶 花は 蝶を招くに心なく
蝶無心尋花 蝶は 花を尋ぬるに心なし
花開時蝶来 花開く時 蝶来り
蝶来時花開 蝶来る時 花開く
吾亦不知人 吾もまた 人を知らず
人亦不知吾 人もまた 吾を知らず
不知従帝則 知らずとも 帝則(ていそく)に従う
続いて、大山澄太氏のエピソード的な文章が綴られています。概ねの意味と良寛の心情が著されています。(詩の直接の意味とは関係ありません)
雨の日は墨の匂いがこまやかである。墨が乾くまで自分で書いた字を見ていると、雨蛙が一匹ぬれ縁から這うてくるではないか。蛙はやがてぬれた字の上を歩き、良寛の良の字の上にじっと坐りこんでしまった。
おい蛙よ、わしが一人で楽しんでいるのを、淋しいと思って遊びに来てくれたかや。うん、そうなのじゃ、淋しいから墨をすり旧詩を書くのじゃ、雨蛙よお前も独りで淋しいのであろう。そこに坐って雨が晴れるのを待つがよかろうーー
小さい声でそう言って良寛は筆をもって立ち上がった。書に戯れることを止めて筆を洗いに水屋の方へ行きかけたのであるが、はっと気がついて、雨漏りの雫を受けているすり鉢のところに坐って、ゆるゆると雨水で筆先を洗う。
洗った筆の穂先をじっと口にふくんでいる時の感触ほど懐かしいものはない。赤ん坊の指よりもっと柔らかくて唇にしみる。
穂先をくわえていると、また何か書きたくなってくる良寛なのである。長雨は蕭々として降りつづく。
花が散る時、蝶は死ぬ~という歌詞の歌謡曲がありましたね。