吉田一穂の詩
吉田一穂は明治31年生まれ。一穂は雅名で「いっすい」ということです。ずっとかずほだと思ってました。
死の馭者(ぎょしゃ)
燭(ともしび)は孤独を描く・・・・
埋れた街々の夜を渉(わた)る幽(かす)かな鐘の乱打が、
悶え噎(むせ)び遠く吹雪の葬列に送られてゆく。
死に群れる凶鳥の地平はるか、
森は触手をあげて参星[オリオン]を焚く。
雪は秘めて夜半の言葉を語り、
聴きいる獣の凝視の麗しさ。
霏々(ひひ)と乱れ降る雪嵐の中に、
馬橇(うまぞり)の青い燈[ランタン]が搔き消されてゆく。
過ぎ去る後姿に立ちて君を送り、
払へど雪は頬に触れて涙のごとく流れる。
この夜、吾が生の簒奪(さんだつ)者に対つて拳銃を祈る!
[ ]内は作者のルビ、( )内は漢和字典によります。
馭者=馬をつかふもの
簒奪=君位、政権を奪う