昭和レトロな赤坂の思い出

昭和レトロな思い出を書きます。主に赤坂中心ですが、東京近郊にわたると思います。
趣味の話も書くつもりです。

ヘルダーリンの詩 ②

 前回ヘルダーリンの詩を手塚富雄訳で挙げましたが、今日は川村二郎訳を取り上げてみたいと思います。


   故郷


 喜び勇んで舟人は帰る 静かな流れへ
 収穫を終えたはるかな島から。
 私の帰郷もその通りだろう 悩みほどに
 たっぷりの収穫が もしありさえすれば。


 私をかつて育んだ こよない岸よ
 愛の悩みを鎮めてくれるか 約束するか
 わが若き日の森よ わが戻る日に
 今一度 あの安らぎを?


 波の戯れを見た冷い小川
 舟が行くのを見た流れの岸辺
 すぐまた会える かつて守ってくれた
 なつかしい故郷の山に


 確固たる境界に 母の家に
 愛する同胞(はらから)の抱擁に
 私は挨拶する 私をかたく抱きしめて
 心を癒してくれる者たちに。


 まめやかな者たちよ! しかし私は知っている
 愛の悩みはたやすくは癒えないと。
 人間の歌うどんな子守歌の慰めも
 この悩みを胸から掃(はら)ってはくれない。


 なぜなら 私らに天の火を与える
 神々はまた 聖なる悩みをも授けるのだ。
 だからこのままであれ。地上の子 私はどうやら
 愛するように 悩むように作られている。
 


 この詩は1800年の作です。「愛の悩み」はヘルダーリンの愛しい人との別離が反映されています。ヘルダーリンは1770年生まれですから、ヘーゲル、ベートーヴェンと同じ歳です。


 訳者の川村二郎は手塚富雄責任編集の河出書房の『ヘルダーリン全集』でも数篇翻訳に携わっていました。


              (参考:岩波文庫)

×

非ログインユーザーとして返信する