昭和レトロな赤坂の思い出

昭和レトロな思い出を書きます。主に赤坂中心ですが、東京近郊にわたると思います。
趣味の話も書くつもりです。

ヴェルレーヌ  上田敏

 ヴェルレーヌの詩は上田敏の訳で有名ですね。
 『海潮音』に収められているヴェルレーヌ『サチュルニヤン詩集』の「秋の歌」は最も有名です。
 
 秋の日の ヴィオロンの ためいきの 身にしみて ひたぶるに うら悲し


 という冒頭の部分。「の」、「の」、「の」と続きます。一見ダブっていて良くないと思うところですが、原文のフランス語も韻を踏んでいます。
 
 les sanglotsの -lo-、 longsの -lon-、 violonsの -lon-、 l'automneの -l'au-というふうにです。
 何となく感じをうまく写しています。
 「秋の日の」というのがいいです。「の」をダブらせているところが奇蹟的に成功しています。


 驚くべきことは、上田敏はフランス語はほとんど分からなかったそうです。信じられない事実です。
 要は英語からの翻訳だったのです。
 フランス語もドイツ語も初歩的な文法ぐらいしか知らず、原文に当たって辞書を引き引き訳していたらしいです。


 普通に訳すと「秋のヴィオロン」とするところ、敢えて「秋の日のヴィオロン」にしたところが上田の詩情ですね。ヴァイオリンを敢えて「ヴィオロン」にしたのもよりフランスらしさを演出したわけです。


 日本人の現代女性がカタカナがずらっと並んでいる商品が好きなのは、80年代ボードリヤールの『象徴交換と死』以降のポストモダンの影響とばかりは言えないようです。
 明治のころの舶来至上主義がすでにあって「ヴィオロン」という言葉に心打たれたのです。


       (参考:大修館書店)


 (注)ちなみに岩波版はタイトル「落葉(らくえふ)」でヴィオロンはヸオロンの表記です。

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