深川舟中 市河寛斎
市河寛斎は寛延二年(1749)江戸に生まれました。『寛斎摘草』巻四から「深川舟中」(天明三年作:五言絶句)を読んでみます。
籍は上州の下仁田になっているようですが、文献では江戸生まれとあります。
深川舟中 深川の舟の中
命舟垂柳岸 舟を命ず 垂柳(すいりゅう)の岸
水路過橋分 水路 橋を過ぎて分かる
蘆荻花深処 蘆荻(ろてき) 花深き処
欲追鷗鷺群 鷗鷺(おうろ)の群れを追わんと欲す
蘆荻=蘆(あし)と荻(おぎ)。いずれも水辺に群生するイネ科の多年草。
鷗鷺=鷗(かもめ)と鷺(さぎ)。ともに水辺の鳥。鷗や鷺は水辺でのんびり羽を休めて遊ぶことから、俗世間に関わらない自由で風雅な交わりを「鷗鷺の盟」という。
韻は分、群(上平声十二文)。
(現代文)
しだれ柳の生えた岸で舟をやとった。舟が橋の下を過ぎると、掘割の水路は枝分かれする。蘆や荻の花が咲き乱れている処まで舟をやり、鷗や鷺の群を見てみたいと思う。
(参考:岩波書店)