日夏耿之介 ①
日夏耿之介の詩を紹介します。
煉金秘義
「道士月夜の旅」
Ⅰ
小彗(こざか)しい黒猫の柔媚(じうび)の声音(こわね)
青ざめた燐火をとぼすあたたかなその毛なみ
琥珀にひかる雙瞳を努めて遁れたいゆゑに
還(また) 儂(われ)は漂泊(さまよ)ひいづる門出である
月光(つきかげ) 大地(つち)に降り布(し)き
水銀の液汁を鎔解(とか)しこんだ天地万物の裡(あはひ)
ああ 儂(わ)が旅(ゆ)く路は
坦坦(たんたん)とただ黝(くろ)い
Ⅱ
わが魂(たましひ)は今宵(こよひ) 梟の夜のやうに健(すこや)かだ
あまつさへ
わが肉身(み)は なかば 壊滅(こぼた)れて
己(おの)が自在の思索だにも礙(さまた)げえぬ
瞳を瞰(み)れば
爛爛(らんらん)と光りかがやき火(も)え昌(さか)り
花いろの火焔(ほのお)を散乱(ちら)す
雙(さう)の手は枯木(こぼく)のごとく
透明の爪 氷柱(つらら)のやうに垂れ下がり
黒い髪毛(かみ)のみ蓬蓬(ほうほう)と天をゆびさす
儂(わし)は わが他人らとまたわが在国(くに)より旅立(かしまだ)ち
いまぞ寔(まこと)にわが故郷に復帰(かへ)る
ⅢⅣⅤへと続きます。それはまたの機会にしようと思います。
(参考:日夏耿之介詩集)