祖母の好きなもの
祖母は二十歳のころ『源氏物語』を読んだと言っていました。与謝野晶子訳だと大正3年と大正12年と昭和13年とありますが、大正3年のダイジェスト版を大正11年ごろに読んだと思います。
与謝野晶子版の大正12年の草稿は大震災で焼けたのです。昭和13年は祖母はすでに三十代半ばです。谷崎潤一郎訳には間に合わなかったと思います。ですが、そもそも男女のことばかりで「源氏」はあまり好きでないとも言っていました。
むしろ『平家物語』のほうが好きだったようです。孫のぼくによく語ってくれました。建礼門院の話、安徳天皇入水の場面、平敦盛と熊谷直実の場面、白拍子祇王と仏御前の話など滔々と語ってくれました。おそらく明治、大正のころに『平家物語』読本がかなり普及していたんだと思います。
幕末を題材にした小説とか司馬遼太郎を中心に好んで読んでいました。男勝りだったのでチャンバラ劇や時代劇をよく見ていました。