昭和レトロな赤坂の思い出

昭和レトロな思い出を書きます。主に赤坂中心ですが、東京近郊にわたると思います。
趣味の話も書くつもりです。

全力疾走の町

 電車内の蛍光灯はたいそう明るい。次の駅が終点のようだ。
 出口付近が混んでいるので隣りの車両に移った。体格のいい高校生が4、5人出口にかたまっていた。何だ同じことだ。しかもこっちは最後部だった、却って後ろに移ってしまった。
 
 駅に着いてホームに降り立ったら、ずいぶんまだ陽が高くまぶしいぐらいだ。終点はどこだっけ。とにかく外に出よう。


 改札口を出ると学生でいっぱいだった。まるで高田馬場か御茶ノ水みたいだ。でもちがう。だいいちさっき乗ってきた電車は小ぶりの車両でちょうど都営大江戸線かモノレールかゆりかもめみたいだった。


 人ごみだというのにフライドチキンとかスイーツを手に持って若者たちがワイワイ騒いでいる。屋台でもあるのかなと思って駅の広場に目をやるとテントが5、6個見える。


 左手に提げていた紙袋がいつの間にか手提げバッグに変わっていた。知らないうちにスリにあったのか、それとも自分がスリをはたらいたのか分からなかった。


 何にしろ怖くなって走り始めた。やたら全力疾走だ。気づくと4、5人一緒に走っていた。


 誰だか知らないが負けたくない。抜きつ抜かれつ一位二位を争う。
 こんなに速く走れるのも最近の100メートル走競技日本選手のおかげだ。彼らは腕の振りがすごい。短距離の選手は上半身を鍛えて腕の振りを力強く速くする。そうすることによって足の走りを速くしている。
 とにかく自分の走りの速さにビックリだ。


 だが短距離と言えない距離を走ってきたので心臓が苦しい。駅から1000メートル近くは走った。


 何でこの人たちはぼくに対抗して一緒に競走しているんだろうか。


 しばらくすると蔦のからまる石塀と街路樹の洒落た歩道に差し掛かった。石塀側の三つぐらい上り坂の小路を通り過ぎた。25メートルぐらい先に上りの石段が見えた。あそこを登るのだ。先頭で登ったつもりだったが、後ろを振り返ってみると誰もいない。


 あれ、みんなどこかの小路を曲がったんだな。道を間違えてしまった。独りぼっちは寂しい。
 石段を下りて再び一つずつ小路を覗いて歩いた。


 そのうちの一つ、人のにぎわいのある小路があった。よしここを行ってみよう。


 小路を入っていくと寺院の広い境内があった。ここでさっきの見知らぬ民間ランナーたちと合流して外に抜けだした。


 再び町の喧騒に戻った。


 車道を横切るとき2台の車に轢かれそうになった。彼奴等はブレーキを踏む気配さえない。
 渡った先の歩道に沿って走った。まだ2人がぼくについて走っている。


 前方からロケット型の路面電車が走ってくる。あれれ歩道だと思っていたが、車道だったのか。慌てて道を替えたが、あろうことか路面電車は歩道を走っていた。


 何てマナーの悪い町だ。どこかに駅はないか。電車に乗って帰ろう。
 よしここの商店街を行ってみよう。もう走るのはやめて歩いていた。同行のランナーの姿もない。


 やたら廃れた町だなぁ。昭和っぽいといえばそうだが、東京にこんな町があったとは。


 駅が見えた。駅前広場にいる若者はみんなグレーの服を着て一様にやさぐれた感じだ。


 ぼくは路線図を見た。まずここがどの駅かだ。ホームの駅名看板を見る。
 「福〇」って書いてある。
 出札口の窓口に訊ねてみた。「山手線ですよね」心にもないことを言った。
 「そ、そうですよ」駅員のおっさんが適当に答えた。こころもとない。


 他の窓口で切符を買おうと思って窓口を覗いた。黒人の駅員だ。
 「あのー、新宿まで行きたいんですけど」最初に渋谷と言いそうになったが新宿のほうがいいと瞬間思ってそう言った。
 「切符は自動出札機で」黒人は事務的に言った。


 やれやれ自動切符売り機はここだなと思い百円玉を4、5個手の平に持って、新宿までいくらか確認しようと斜め上を見上げたら、


 脇からこちらをじろりと見上げて硬貨を入れる男がいた。
 「ああーっ!今入れようとしてたのに」ぼくは言った。
 「あなた★〇▼×☆θ●×▲β・・・でしょ」男はやたら早口でいかにも論理的ふうに言った。


 「横入りだろうが!😠」




 ここで目が覚めました。汗びっしょりかいていました。
 下町の足立区あたりだと思っていましたが、最後に見た路線図は大田区の駅でした。また大田区かよと思いました。でも実際に「福」が付く駅名は見当たりません。
 街の雰囲気が大田区のような気がしただけです。


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