昭和レトロな赤坂の思い出

昭和レトロな思い出を書きます。主に赤坂中心ですが、東京近郊にわたると思います。
趣味の話も書くつもりです。

鯔(出世魚:いな、ぼら)  柏木如亭

 柏木如亭の『詩本草』から「いな」を挙げます。


  鯔(いな)

 遊讃既に倦み、舟を買ひて備に回(かへ)る。時に十二月十五、天晴れ風静かにして、大小の諸島争ひて図画を献ず。
 舟中復た一点の寒無し。乃(すなは)ち居停(きょてい)主人餽(おく)る所の鯔(いな)を焼いて晩食す。
 その味奚(なん)ぞ止(ただ)に八珍(はつちん)のみんらんや。夜半(やはん)竟(つひ)に西大寺の下に泊す。
 月光凄涼(せいりゃう)として異客(いかく)の感無きこと能はず。一絶を口占(こうせん)してこれを遣る。
                           (原漢文)



 分夜の鐘声 浪堆(らうたい)に落つ
 孤舟泊して近し 法王台
 人と同じく睡(ねむ)らざるは天辺の月
 偏(ひと)へに疎篷疎(そほうまば)らなる処を鑽(き)り来る
                           (原漢詩)


 (註)
 遊讃=讃岐への遊歴。如亭は文化七年冬、四国の讃岐高松に遊歴し、十二月十五日高松から備中庭瀬へ舟で戻った。

 備中庭瀬
 
 献図画=絵のような景色を見せる。
 一点之寒=少しの寒さ。
 居停主人=寄寓先の主人。
 餽=金銭や食料などを贈る。
 鯔(いな)=原本では魚へんに子と表記しています。鯔(ぼら)の幼魚。『魚鑑』の「いな」に「初生をおほこといひ、微しく育たるをゑふなといふ。二歳のものをいなといひ、三歳をすばしりといふ。閩志にはいなと名づく。四歳以上をぼらといふ。即鯔魚なり。十歳以上をとゞといふといへり」。

 ぼら=いな


 八珍=八種の珍味・美味。
 西大寺=岡山市西大寺にある真言宗の金陵山西大寺。

 西大寺


 凄涼=もの寂しい。
 口占=詩文を草稿を立てずに、口ずさんで作る。
 分夜鐘声=夜半に撞く鐘の音。張継「楓橋夜泊」詩の結句「夜半鐘声客船に到る」を意識した表現。

 「楓橋夜泊」張継


 浪堆=浪の盛り上がった所。
 泊近=版本の送り仮名に従えば「泊し近く」と訓読すべきだが、意味によって「泊して近し」に改めた。
 法王台=寺院の意。西大寺を指す。
 鑽=うがつ。ここは月光が隙間から射し込んでくることをいう。
 疎篷=舟の上に粗くふいた苫(とま:竹や茅などで編んだ覆い)。



        (参考:岩波書店)

×

非ログインユーザーとして返信する

あと 2000文字

※は必須項目です。