晩に品川に帰る 大窪詩仏
大窪詩仏の『卜居集』の中の「晩帰品川」を紹介します。
大窪詩仏
江戸品川高輪
晩帰品川 晩(くれ)に品川に帰る
烟霧高輪暮 烟霧(えんむ) 高輪の暮(くれ)
前途更渺茫 前途 更に渺茫(びょうぼう)たり
潮来呑欠岸 潮(うしお)来(きた)りて欠岸(けつがん)を呑み
月湧出危檣 月湧きて危檣(きしょう)を出づ
蓬戸無人守 蓬戸(ほうと) 人の守る無く
梅窓有酒香 梅窓 酒の香(かんば)しき有り
縄床払塵罷 縄床(じょうしょう) 塵を払い罷(や)みて
乞火向隣荘 火を乞(こ)いて隣荘に向かう
烟霧=もや
高輪=江戸から東海道への出口にあたる高輪大木戸より品川に至る一帯の地名。『江戸砂子』によれば「品川かで片側町にて東は海也。房総の山々幽にして眺望よし」とある。
渺茫=かすかではっきりしないさま。
潮来=潮が満ちてくる。
欠岸=崩れた岸。
危檣=高く立った帆柱。
蓬戸=蓬を編んで作った戸。転じて貧しい家、あばら家をいう。
梅窓=月光に照らされて梅の影が映っている窓。季節が初春であることを示す。
縄床=本来は縄を張って作った腰かけのことだが、ここでは縄を編んだ敷物をいうか。
払塵=しばらくぶりの帰宅であることを暗に示す。
隣荘=隣家。荘は田舎の家。
韻➡茫・檣・荘(下平声七陽)
江戸砂子
(参考:岩波書店)