アマガエルに教わったこと
急にアマガエルが触りたくなったことがあり、ネットで検索したら通販があったので、試しに注文してみました。
五匹買って恐る恐る宅配便の段ボールを開けてみるとちゃんと生きたまま届きました。うちにあった安っぽいプラスチックの水槽に取りあえず入れました。後日ちゃんとした水槽を買うため葛西のほうへ出かけたり、エサは生きたものでないとカエルは食べないので生きたエサ(虫です)を中野に買いに行きました。
子どものころにアマガエルを触ってカワイイなと思っただけで、そんな安易な考えで飼い始めたのですが、意外と難しいことが後から分かったのです。金魚のエサでも与えておけばいいと軽く考えていたのです。
金魚用のキレイな白い石、大きめの石は拾ってきたもの、枝とか葉っぱとか花屋で分けてもらって水槽内は見栄えが良くなりました。
水たまりみたいな場所も造り、時々スプレーで水を吹き付けたりしました。でもアマガエルはエサをなかなか食べず水槽のガラスに引っ付いたままじっとしています。
運動不足になるといけないと思い、風呂の湯船をキレイに洗い、水を張ってカエルたちを放しました。カエルたちは開放されたようにグングン泳ぎました。油断をすると湯船から飛び出しそうになりました。
やっぱり逃げたいんだなと思い、水槽に戻すときチョット可哀想に思いました。
ある時生きた虫を入れるため上ぶたを開けた際、水槽から一匹飛び出しました。
オーディオラックの上に水槽を置いていたのですが、カエルは裏に落っこちました。CDプレーヤーとかアンプとかのコードがもつれているラックの裏です。ホコリまみれの床に飛び降りたのでカエルも面喰ったようでした。どうしようか戸惑っているようでした。
とにかくカエルを捕えようと、腕がホコリまみれになる覚悟でラックの裏のすき間に腕を潜り込ませ、下の床に手を伸ばしました。
そうするとカエルのほうからひょいと手の中に飛び込んできたのです。そのままそーっとリフトのように腕を上げました。そーっと水槽に戻しました。
その時感じたのは、カエルから見れば巨大な敵の手中に飛び込むのはずいぶんな勇気がいるだろうな、と。いや人間の狭い料簡を超えた仏心のようなものがカエルの中に在るのではないか、とさえ思ったのです。
湿地を好むカエルにとってホコリまみれの床は地獄に感じたのでしょうか。地獄から脱出するのに敵の舟か味方の舟か考えている暇も無かったかもしれません。
生き物に疎いぼくでもカエルが湿地を好むことは分かっていましたから、水槽に戻して体にまとわりついたホコリを洗い流してやりたいと思いました。
生き物の中でも一度逃げ出したものは近づくだけでさらに逃げるのがほとんどですが、瞬時に手の中に飛び込んできたカエルは敵だろうが相手を信じる心の広さと言ったら大げさですが、本能の許容度の広さにびっくりしました。
この仏のような行動にさすがに申し訳ないと思い、天然の池に放そうかと思いましたが、それでは昨今のペット(外来種など)を放して生態を乱したりするペット愛好家と同じで無責任な行為です。
結局五匹とも死なせてしまい、申し訳ない、ごめんなさい、と感じています。