バンド ③
ある日、グレコのテレキャスを持ち込んでスタジオで合わせました。
調弦が狂っているとHYは言いました。確かに安物のテレキャスですから、糸巻が甘く狂いやすかったかもしれません。
御茶ノ水か駿河台下の楽器屋でテレキャスのペグの交換をしてもらいました。調弦が狂いにくいペグになって再びスタジオで合わせました。ぼくはほぼコード担当です。HYはやっぱり調子が出ないというのです。
かねてからぼくはレスポールモデルに関心があったので、いい機会なので新宿の楽器屋でグレコのレスポールモデル10万円を月賦で買いました。
そのことをHYに電話で告げたところ、解散すると言い出したのです。ぼくが募集をかけて作ったバンドなのに参加者のHYが解散を言い出す。最後にぼくも言いました、「君の半音階の練習では誰もバックを務めたがらない」と。急きょぼくはレスポールモデルを解約しました。
ふり返って思い出すと、募集をかけたとき、何人かギタリストと会いました。一番巧かったのはエロ漫画家をやっている人でした。弾いてくれたのは自作の曲でラルフ・タウナー風のプログレのちょっと上をいくような、幻想的な構造の完璧なテクニックに支えられた曲でした。それをアコースティック・ギターでさらりと奏でました。
巧すぎるという印象を持ちましたが、同席したHYは眉ひとつ動かさず我々と感性がちがうとその場で断ったのです。
他のギタリストとはうちで音合わせしました。ヤマハの30万だか50万のギターを持ってきた人もいて、ぼくはもっぱらコード進行だけ弾きました。「ライトミュージック」誌に載っていた渡辺香津美の提示したジャズブルース循環コードとか「枯葉」のコードです。その際もHYは半音階の練習です。
HY抜きで会った時にあるギタリストが「あの人のあれは何なの?w」と言いました。ぼくは苦笑いしました。