山径
山径(やまみち) 天竺浪人
山林幽深(おくぶか)き 径(みち)歩み 浮雲に梢搦(こずえから)みて根岸
靑丹(あおに)の匂ふが如く 山肌の側の葉乾き落つれば紬の生壁色、
踏捨(ふみすて)の桑染(くはぞめ)見たやうに、濕(しめ)らし土が
床しきは 煤竹(すすだけ)の帷子(かたびら)を想ふ。
霄(そら)諦見(ながむ)るに 菱星(ひしぼし)滑る刹那交睫(まばたき)て
四方が天(あめ)は屑(いさぎよ)き畏(おそ)ろしき褐返(かちがへ)しの
幾千万の絵の具に染められぬ。
錆鼠(さびねず)の森の煩悶(もだへ)に怯へ曇らむ胸の月 遠耳(とおみみ)は
闇の中、水音 木(こ)がくれて
遠近(をちこち)に木霊(こだま) 遙か渡らん。
天竺浪人とは無職のこと。元は住所不定の浮浪者という意味で江戸時代は逐電浪人と呼んだそうですが、ひっくり返して天竺になったとか。同名の漫画家さんもいるようですが、無関係です。
この詩は平成元年無職のときに自作しました。
このころ、今でもそうですけど漢文と古文と言文一致体と雅文調をミックスしたような詩にあこがれます。