「夕陽は赤く」
小学5年になってクラス替えがありました。1年から4年までクラス替えがなく担任の先生は当たり前ですが、ずっと同じ男の先生でした。5年6年は女の先生でした。
女の先生は何となくですが、生徒に媚びている感覚がありました。何度か授業を中止にして自由時間にするのです。大半の生徒は喜んで屋上へ上ってゴム段やテニス(名称は忘れましたが、大尽から貧乏まで階級があったように記憶しています)、スカートめくりはあいさつ代わり、めいめいの遊びを楽しみます。ただ成績優秀でA中学に進んだ2人のNクンらは授業をつぶすことに不満があったようです。
5年から転校してきたOさんは当時すでに珍しくなっていたおカッパさんの髪型で、何だかぼくはとても気になって、からかってばかりいました。廊下や階段ですれ違うたびに「こけし」とつぶやいていました。Oさんといつも一緒に行動していたSさんはOさんの用心棒的存在でした。Sさんはぼくに恐い顔をして威嚇してきます。
ぼくは家でもOさんのことを考えるようになり、加山雄三の「夕陽は赤く」をかけて歌詞の内容に思いを重ねていました。「夕陽は赤く」は静かな曲で、ドラムはハイハットやシンバルも控えめ、スネアも叩かずリムショットでした。ハイハットの音を真似て居間にあった小さな箒(ほうき)でソファのアームのところを叩いてリズムを取りました。
夕陽は赤く-加山雄三
ある日休み時間教室でまったりしていた時、用心棒のSさんはぼくのところに来て「あんたOさんのこと好きなんでしょ」と言いました。虚を突かれたぼくは「いいや」と曖昧に答えました。