父の浮気でモメたこと
台町のころ、父がTという女性と浮気したことが発覚しました。Tは表町の2階に間借りしていた洋裁学校の講師です。実家は三田の札の辻です。Tは昭和5年生まれの午年でした。これは以前も書きました。
台町の居間で夕飯を食べている時です。祖母が父のYシャツを洋服ダンスから取り出しビリビリに破りました。いや、母や妹の記憶ではハサミでビリビリ切り刻んだそうです。その話は何十年も昔から聞かされてきました。ですが、ぼく自身は全然覚えていないのです。なぜ覚えていないのか、と言うよりその場面に居合わせたことも知りませんでした。
最近妹から聞いてびっくりしたのは、ぼくはバリアを張っていたそうです。祖母がYシャツをビリビリ破っている時も、ぼくは自分に関係ないとばかりにご飯を一生懸命食べていたそうです。それがまるでバリアを張っているように見えたのかもしれない。ぼくの記憶から消去されているということは実際そうだったんだろうと思います。
祖母がなぜ父のYシャツをビリビリにしたか、というと、会社に出勤できないようにです。会社を休めば社長さんから問われます。実はこれこれと白日の下に晒したかったのでしょう。
母とぼくは一度社長の自宅を訪ねています。父の浮気の問題を相談するためです。帰りに社長は自宅の居間にあった『二宮金次郎物語』と『中国むかし物語』をプレゼントしてくれました。それがきっかけでぼくは本に熱中し出したのです。