昭和レトロな赤坂の思い出

昭和レトロな思い出を書きます。主に赤坂中心ですが、東京近郊にわたると思います。
趣味の話も書くつもりです。

尿意との戦い

 台町のころです。何かの拍子でクラスの違う女子と一緒に歩いて帰るハメになったのです。可愛い子でした。のちに中学の数学の授業を受けるS先生のお嬢さんでした。台町に住んでいると言うので二人並んで帰ったのです。
 道中無言な感じだったと思います。小学生でクラスが違うし初対面です。それにぼくはうすうす尿意を感じていたのです。なぜか赤坂見附のところからT文具店の前を通り牛鳴坂を通ったかどうか、うろ覚えですが、もしかすると「とらや」の前を通って薬研坂を下りたかもしれません。いつもとルートが全然違います。
 尿意と戦うぼくにとって彼女と談笑する余裕など微塵もありません。薬研坂を下りて上って、コロンビアの向かいあたりからどうにも我慢できない状況に陥りました。もううちは数十メートル先に見えます。
 ぼくは踵を返して後方に走りました。尿意をまぎらわすためです。彼女はうちのほうに向かうも訝しげにぼくをふり返ります。
 すると、うちの玄関から母が出てきました。なぜ母がそのタイミングで出て来たか未だにわかりませんが、学校からSさんと一緒に帰ったと連絡でもあったのかもしれません。ぼくは尿意を我慢するのにいっぱいいっぱいでした。
 母とSさんは言葉を交わしているようでした。ぼくは意を決して玄関に向かってダッシュしました。Sさんとさよならも言わず家の中に飛び込みました。母にしてみれば可愛い女の子と帰ってきたので照れているんだろうと思ったかもしれません。でも事実は全然違うのです。
 Sさんの家は三分坂を下りて路地を入っていったところにあると何年も経ってから知りました。

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