黒い水
L-システイン錠(二日酔い予防)とビタミン剤を1錠ずつ飲みこんだ。のどに引っかかりそうだったが、ゴックンとやった。
ああ、飲みこめた。
部屋の家具が少ないなと思った。こっちは和室の6畳だが、あっちの部屋は洋室の8畳だ。部屋からわずかに商店街が見える。
8畳の洋間を覗いたら部屋のど真ん中に丸い便器があった。黒い水があふれ出ている。便器の真下に排水溝があるので、黒い水はそこに全部流れ込んでいる。ある意味助かった。
祖母が立ち寄った気配があるな。階下に降りていったのだろう。
ぶらっと外に出た。
大通りを歩いていくとコンビニの店舗で店員が店先ののぼりを変えていた。
「冷やしたぬきそば始めました」
ほーッ!ファ〇リ―〇ート懐かしい。まだあったのかあれ。歩道からセットバックした店舗ののぼりを見ながら歩いていたら、もう一人の女性店員とぶつかりそうになった。
店員は歩道に置いてあるそば用のつゆがたっぷり入った簡易どんぶりを、昔のそば屋の出前みたいに7、8個重ねて搬入しようとしていた。
つゆが少しぼくの腕にかかった。あっちっち。
「あぶねーな」
咄嗟に出た。
「あぶねーな」
女性店員の返しも早かった。後ろを確認せずに振り返ったあっちが悪いのに口だけは負けないってわけか。
のぼりには「冷やし」って書いてあるのに熱いつゆなんておかしいだろ。
あ、そうか連日の雨だし冷夏だもんな。でも熱いつゆは店内で注がないのか?
(画像と文面は関係ありません)
まあ、いいか。それにしてもこうして歩けるようになったなんて夢のようだ。心の底では歩けるようになるんじゃないかと思っていた。
おっと、
よろよろ歩いているオッサンにぶつかりそうになった。オッサンは早足でぼくの横に来て、
「きょうは行かないのかい」
と、飲み屋街を指差して言った。
「あとで行く」
適当に答えた。オッサンは知り合いと勘違いしたようだ。
それか、文句言うつもりだったが顔を見て温厚と分かって咄嗟に取り繕ったか。
なんでオッサンの心理まで掘り下げなきゃいけないんだ。
便器から流れ出ていた黒い水は何だったのか。
(変な夢でした。でももっと変な夢は、夏でも置きっぱなしのコタツに等身大のもぐらが飛び込んできたのです。モグラが母親のような気がします。その時はさすがに跳ね起きました)