夢野久作
夢野久作の『東京人の堕落時代』という本を祖母に読ませたことがあります。箱入りの単行本です。
ぼくはすでに読んでいましたので安心しておススメしたのです。明治、大正、昭和と生きてきた祖母にとってかなり興味深く読んだようです。
この本には「東京人の堕落時代」はもちろん収録されています。このルポルタージュ風の作品はかなり大衆的な風俗とも括れるような内容が書かれていて、これはこれで面白いのですが、
「街頭から見た新東京の裏面」は政治や経済のことも書かれていて祖母はこちらをえらく評価したようでした。
夢野は明治22年生まれ、祖母は明治35年生まれですから同世代ではありませんが、世相から同時代人として見ることができると思います。
ある時、祖母の部屋のベランダの塗装か何かでシルバー人材から派遣された人が来たことがあります。
作業が終わって帰り際、祖母の本棚に『東京人の堕落時代』の背表紙を見つけて「これお婆さんが読むんですか」とびっくりしたように言いました。
タイトルにインパクトがあるので意外に思ったのかもしれません。
活字中毒の祖母は何でも読みます。
夢野久作の『白髪小僧』(箱入り単行本)も読みました。読み終わった後「大したもんだ」と言いました。
ですがさすがに『ドグラ・マグラ』は読ませませんでした。
他に久生十蘭の作品を高く評価していました。久生は祖母と同じ歳です。
無駄がなく端整な文章で面白いと褒めていました。
あと奢覇都館の山崎俊夫の作品さえ読んだのです。
こんな珍しい感性を持った明治生まれの祖母を誇りに思います。