家族
妹よ、
さっき気づいたんだけど、家族って一番いいな。家族五人でいるときは何の変哲もないパパとママがいて女傑のおばあちゃんがいて、
ぼくはポツンと一人息子でいればよかったんだ。妹のお前は我が家のマスコット。
一家団欒で話題もなく黙って晩飯食ってるときが一番幸せだった。
この歳になってやっと気づいた。
子どものときは自分が大人になるなんて漠然としか思わなかった。何になろうなんてイメージもわかなかった。適当にその辺の人と結婚して適当に所帯をもってぐらいに考えていた。
大人になってみたら簡単に結婚もできないし、まともな就職もできない。子どももいない。つまんないことばかり。
子どもでもいれば早くに家族の大切さに気づいていたんだろうけど。
妹よ、
旦那が亡くなってそろそろ家族が恋しいと思い始めるころじゃないか。
パパが死んでも悲しくなかった。ママが死んでも悲しくなかった。一番仲良かったおばあちゃんが死んだときは部屋で二時間泣いた。
まがりなりの妻が死んだときは四時間泣いた。
それでもあのころの五人家族がいいなんて思わなかった。やっと独りになれたんだから幸せをつかんでいこうと思っていた。
だけど自分が病気になって毎日毎日死にたいと思うとき、あの五人家族のときが一番幸せだったと気づいた。
一番尊いのは人類愛でも男女の愛でもない。家族の愛だ。
そのことにやっとやっと気づいた。
妹よ、
オレは先に逝くから。天国で待ってる三人のところへ行って元の家族になる。お前も何年か経ったら来いよ。
そしたらまた五人家族で晩飯食おうぜ。
オレにとっての一番の幸せは五人家族そろっていること。
一人欠けてもそれはオレの五人家族じゃない。そのときには気がつかなった。
感じてることを言葉にして自分に突き付けたのは初めてだ。遅すぎたが、死ぬ前に気づいて良かった。