ウィリアム・ブレイク 壽岳文章訳
壽岳文章の訳でダンテ「神曲」に触れた。挿絵はウィリアム・ブレイクによるものだった。素朴な味わいでかつ幽玄な挿絵。訳も口語とはいえ和漢混淆文のような味がある。山川丙三郎訳ほど古めかしくなく、平川祐弘訳ほど平易ではない。
壽岳はブレイクの詩集の翻訳で知られた人である。ブレイクを読んでみると詩人そのものでありシニカルな面もあり、それはスウェーデンボリやイエスにまで及ぶ。まだ読んでいる途中だが、ますます深みに入っていきたい誘惑に駆られる。(スウェーデンボリには注意が必要)
80年代、壽岳訳の『神曲』(当時は箱入りの単行本:84年再刊行)を書店で立ち読みした第一印象は間違いなかった、と思える詩想が確信できた。
ダンテ『神曲』の挿絵ブレイク
ブレイク詩集「羊飼い」の挿絵
ブレイク詩集に収められた「羊飼い」を壽岳は複数回翻訳しているようだ。その年代によって変わっている。
昭和7年の翻訳は
羊飼ひ ヰリャム・ブレイク
ほんとに楽しいな、羊飼ひの楽しい身の上は!
朝から晩まであちらへ行きこちらへ行き;
一日ぢゅう、羊たちの後を追うてゆくのだらう、
口には讃美の声をみたして、
仔羊のあのあどけないよび声が聞えるんだから、
それに答へる母羊のあのやさしい声が聞えるんだから;
羊飼ひが近くにゐるのを知って、
なかよく群れつどふ羊の番をする羊飼ひ。
昭和22年と思われる翻訳は
羊飼い
羊飼いのうらやましい身の上の なんという楽しさ!
朝から日暮れまで 気の向くままに歩きまわる
日がな一日 羊のあとを追い
口から出るのは いつもいつも神への讃美
羊飼いが聞くのは 母呼ぶ仔羊のあどけない声
それに答える母羊の 柔らかなやさしい声
羊たちが平和でいられるのも 羊飼いが見張っているから
羊たちは 近くに羊飼いがいるのをちゃんと知っている
戦前と戦後ではだいぶ違います。
(参考:岩波文庫)